長崎新聞健康欄
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2008年8月18日掲載

乳がんの最新治療


 乳がんの治療法は目覚ましく進歩しています。その現況と将来の可能性について紹介します。

 手術では、乳房を全部切り取らずに部分切除する「乳房温存術」が世界中で行われるようになりました。しかし、どんな人でも乳房温存が可能なわけではありません。

 手術前にはMRI検査で病変の広がりを確認し、切除する範囲を決定します。術後、残った乳房に放射線療法を行えば、乳房を全部取る場合と比べても再発率に差はありません。

 乳がんは脇の下のリンパ節に転移する性質があることから、従来はそのリンパ節をすべて取り除くのが一般的でした。最近は脇下のセンチネルリンパ節と呼ばれる部分を検査することで転移の有無を予測できるようになり、リンパ節の切除を回避し、切除に伴う合併症を防げるようにもなってきました。

 乳房を全部取る手術でも最初から風船のような組織拡張器を入れ、後日シリコンなどの人工乳房で乳房を再建することが可能です。

 手術以外に、乳がんの組織だけを高温で焼く「ラジオ波焼灼(しょうしゃく)」という方法もあり、現在その適応や安全性が検討されています。

 術後の再発を減らすために行われる治療を「補助療法」といいます。がんの性質や患者の状態によって内分泌療法、化学療法(抗がん剤)、分子標的薬などいろいろな治療法が選択されます。

 化学療法は従来、術後や再発時だけでしたが、術前に行うことも増えました。抗がん剤はアンスラサイクリン系とタキサン系が主流で、食欲不振、嘔吐(おうと)、脱毛などの副作用がありますが、ほとんどの人が外来で対応可能です。

 分子標的薬とは、がん細胞の増殖にかかわる部位だけを攻撃する最新の薬剤です。乳がんの領域ではトラスツズマブという薬剤が使用できます。従来の抗がん剤に比べて有意に再発を減らすことができ、目立った副作用もありません。術後補助療法として保険適応にもなりました。今後もこの系統の新薬開発が期待されています。

 内分泌療法では、閉経した人に対し、乳がんを増殖させる女性ホルモン、エストロゲンの産生を完全に抑制するアロマターゼ阻害剤が登場し、再発率がさらに低くなりました。

 がんが骨に転移した場合には、骨の強度を高めるビスフォスフォネート製剤という薬剤を使います。痛みを和らげ、生活の質(QOL)を高めることができます。最近は骨転移予防薬としても注目されています。

 遺伝子技術を使った遺伝子診断、遺伝子治療薬の開発も進んでおり、いずれ臨床の場にお目見えする日が来るでしょう。

 ただ、乳がん治療で一番有効なのは早期発見です。マンモグラフィー(乳房エックス線撮影)検診の重要性が知られるようになりましたが、国内の受診率はまだ10%程度です。乳がん死亡率が低下した欧米の受診率は60%以上です。日本でも、もっと多くの人に受けていただく必要があるようです。

(長崎市新地町、糸柳ブレストクリニック 院長  糸蛛@則昭)
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